彼女は

彼女は僕の斜め前に立っていた。
新宿発の各駅停車で。

読みかけの本の中で
しばらく目を泳がせた後
ふと顔を上げると彼女がいた。

見も知らない女性だ。


ただ、似つかわしくない。
平日の日付が変わる前の電車の中は
世界で一番誰かに無頓着になる時間と言っても過言じゃない。

そう、彼女は泣いていた。


瞳に涙をたたえ
溢れそうになるのを必死で堪えていた。

僕はもちろん同情なんてしないし、
(それはもちろん彼女のことも、その涙の理由も知らないから)
次の駅で降りた彼女を目で追うこともなかった。


美しいものと醜いものを同時に兼ね備えるものが存在すると
ただそれを確認したに過ぎない。


冬の終わりと
春の始まりは
同じものだってことなんだろうな。


知りたいと思わない。
そんなことが最近増えた気がする。


彼女の震える唇は
そんなことを思わせた。


うたうたい 堺輝

うたうたい堺輝の綴るしょーもないアレコレや ライブスケジュールなど

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