空、工事中


春らしくなってきましたね。
うちの近くの公園にまた桜が咲きました。
さっきベビーカーに乗った子どもと目が合いました。

窓を開けると、
ふんわりと風が入ってきて、
ちょっと薄着でもいいかもよ、と教えてくれました。

冷蔵庫の中のコーラには手をつけずに
僕は蛇口をひねってそのまま水を飲みました。

作っておいたカレーを食べる気はあまりしなかった為、
洗濯物を畳んで
新しい洗濯物を干しました。

ついでに布団も干しました。
家に帰るのは明日の朝で、
布団は夜露にさらされる訳ですが、
大したことじゃありません。
そう、大したことじゃあ
ありません。

時計を見上げて
何故か僕は
It's time to goと
英語で呟き、
寝ぼけたパジャマを着替えました。

今日は久しぶりの休日で
西の方に出向いてみようと思います。

小田急線のいつもと反対側のホームに立って、
何本か見送った後に電車に乗りました。

電車に乗るのにちょうどいい曲がポータブルプレイヤーから流れてこなかっただけなのです。

いや、それは嘘です。
特に意味はないのです。

時に僕はつかなくていい嘘をついてしまうのです。

座席に座ると、僕の履くスニーカーが
この車内の誰のものよりも素敵だと思いました。

でもそれはただの外見だけで、
内側は磨り減った踵以上に破れているのです。

新しい靴下と
古いスニーカーが擦れて
なんだか最近少し歩きにくいのです。

僕が乗る電車は都合よく運んでくれますが、
最後には非情にもそのドアから僕を吐き出します。

僕は電車の車窓から景色を眺めていると、
さも自分が前に進んでいるような気分になるのです。

でも時々、
動いてるのは外の景色の方であって、
実は自分は1ミリたりともそこから動いてないような、
そんなような気分にもなるのです。

それに気付くと
突然吐き気に襲われます。
時差ボケみたいな。
なったことはありませんけどね。

そういう時には目を瞑ります。

そしてそれに気付いているのが、
この僕だけで、
他の誰も気付かないのが少し羨ましくなります。


だから僕はそういう時、
電車の吊り革を使って、
まるで南の森のオランウータンみたいに
行ったり来たりするのです。

実はそれは
とても愉快で
誰にも教えたくないのですが、
もし僕みたいに
つかなくていい嘘をついて
内側が破れたスニーカーを履いて
時々吐き気に襲われてる人がいたら
僕の真似が出来るように
最近頻繁に行います。

手を叩いて喜ぶ人や
見て見ぬ振りをする人、
露骨に嫌な顔をする人、
いろんな人がいますが、
皆の前で消化不良のキリンみたいなことは出来ません。


そろそろ降りる駅が近付いて来ました。
車掌は今僕が降りる駅をアナウンスしました。

昼下がりの街は
僕みたいなよそ者が忍び込むことが出来るくらい
不用心です。

けど、それは本当は
街がタヌキ寝入りしてるだけなのです。

僕もこの街もずっとお互いそのことに気付いたまま、知らない振りをしてるのです。


手紙を何枚か書くつもりです。
多分誰も読まないことになるでしょうが、
誰かに読ませることが目的ではない手紙も
またいいと思うのです。


うたうたい 堺輝

うたうたい堺輝の綴るしょーもないアレコレや ライブスケジュールなど

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